ユーロビジョン2015ルーマニア代表は、ロックバンドVoltajの「De la capăt / All Over Again」に決まりました。

Voltaj(=ボルテージ)という力強いバンド名とうって変わって、Călin Goiaの優しく語りかけるようなボーカルが印象的なミディアムポップナンバーに仕上がっている楽曲ですが、ミュージックビデオに出てくるメッセージ、気になりますよね? 
今回はミュージックビデオを通して伝えたかったVoltajのメッセージも紐解いてみたいと思います。


〈Voltajのプロフィール〉
voltajVoltajは5人組のロックバンドで、民主化革命が起こる前の1982年から活動を続けている、ルーマニアで人気の高いグループです。

現在のメンバーは以下の5人です。
 ・Călin Goia (ボーカル)
 ・Gabi „Porcus“ Constantin (ギター)
 ・Adrian Cristescu (キーボード)
 ・Valeriu „Prunus” Ionescu (ベース)
 ・Oliver Sterian (ドラム)

長い活動期間の中でバンドメンバーや演奏スタイルは様々に変遷してきていますが、現在はエレクトロポップの要素も取り入れたポップロックスタイルで活動しています。


VoltajLumea E A Mea(世界は僕のもの)」)

モルドバ、オーストリア、スペイン、イタリア、アイルランドなど、国内外での活動経験もある彼らは、2005年のMTV Europe Music AwardでBest Romanian Actを受賞します。 

国内外で高い評価を受けているVoltajは、2015年に開かれたユーロビジョンのルーマニア国内予選に出場し、優勝します。
 
VoltajDe la capăt」 ユーロビジョン2015ルーマニア国内予選より)

ルーマニアを代表するロックバンドが晴れて代表の座を射止めたわけですが、気になるのはミュージックビデオに流れたメッセージ、国内予選の冒頭で、母親が寝てる子供にキスしてから重い荷物を持って家を出るというパフォーマンス… 
これらは何を示しているのでしょうか? 

それには、ルーマニアが辿ってきた近年の歩みを振り返る必要があるようです。


〈ルーマニアの抱える出稼ぎ問題〉
1989年、長く実権を握っていたチャウシェスク政権が革命によって崩壊した後、ルーマニアは民主化を果たし西側諸国の仲間入りを果たすこととなりましたが、経済は大きく停滞した状況が続き、ヨーロッパの中で最貧国の一つとなってしまいました。

しかし、地道な改革や、2007年のEU加盟を期にルーマニアの経済は飛躍的に伸びていきます。現在のルーマニアの一人あたり実質GDPも9750ドル(2015年4月IME調べ)と、民主化当初(2302ドル)より大幅に増加しています。

ところが、 目をルーマニアからEU全域に移すと、イギリスやスペイン、イタリアなどはルーマニアの倍以上のGDPを打ち出しており、EU域内の経済格差がはっきりと現れていることがわかります。

volpv1EUでは域内の人と物の行き来が自由となっていますから、2007年のEU加盟後のルーマニアでは、より多くの賃金を求めて出稼ぎに行く人が後を絶たなくなってしまいました。Voltajのミュージックビデオにもありますが、現在300万人以上のルーマニア人が出稼ぎに行っているのです。

その結果、ルーマニアには現在、出稼ぎに出ている親と長く離れ離れになっている子どもたちが多数いるという社会問題が起こっているのです。2006年には、10歳の子供が、出稼ぎに行っている親に会えない寂しさのあまり自殺してしまったという出来事があり、大きな関心を呼んだようです。子どもにもっと良い生活をしてほしいと願い、出稼ぎに行った結果がこのような悲劇となってしまうのは、何とも痛ましいことだと思います。

そこで立ち上がったのが、今回ルーマニア代表となったロックバンドVoltajです。
彼らは今回の楽曲にちなんで、「All Over Again(De la capăt)」というプロジェクトを立ち上げ、親と離れ離れになっている子どもへの支援をNPO法人とタッグを組んで行うこととなりました。 今回の楽曲は、そんなルーマニアの現状を歌の力で変えていこうという思いが込められていたんですね。


ルーマニアの子どもたちの思いを代弁すべく立ち上がったロックバンドVoltajは、現地時間5/19に開かれる準決勝1日目に登場します。
彼らの思い、そして暖かいルーマニア語の響きに、ぜひ耳を傾けてみてください。


参考:ESC公式、Wikipedia"Voltaj"、Voltaj公式サイト、NHK BS1地球特派員2007「拡大EUのフロンティアで ~新加盟ルーマニアの光と影~」(PDF)、世界経済のネタ帳「ルーマニアの一人あたりGDPの推移」