ユーロビジョン2016ウクライナ代表は、Jamalaの「1944」に決まりました。

国内の混乱により昨年出場辞退を表明し、今年復帰を果たしたウクライナで選ばれたこの楽曲は、故郷を外からの侵略者によって見るも無残に壊されていった過去と、そこから新たな未来を作り上げていく決意を、クリミアン・タタールの言葉を交えて歌い上げる反戦歌です。

ちなみに、歌のタイトルになっている「1944」とは、第二次世界大戦中に旧ソ連の指導者スターリンがクリミアからタタール人を追放した年を示しています。

ハイトーンを駆使した独特な節回しのコーラスと、彼女のもう一つの起源であるアルメニアで使われている民族楽器Dudukのメロディが、オリエンタルな雰囲気と哀愁を誘い、楽曲に強い個性をもたせています。

元々、ユーロビジョン・ソング・コンテストでは、政治的な意味合いを持たせた歌詞やタイトルを盛り込むことを禁止していますが、この楽曲は、非難する対象などが具体的には書かれておらず、普遍的な反戦歌に仕上げられているため、EBUからもGoサインが出されたものと思われます。

しかし、共に今年のユーロビジョンに参加するロシアからは反発の声が上がっており、彼女の出場に反対しているロシアの下院議員からは「大半のウクライナ人は電力費を支払えず、ユーロビジョンを(テレビで)見ることもできないだろう」 などという発言も飛び出しているとのこと。早くも場外で火花が散り始めています。


〈Jamalaのプロフィール〉
Jamala(本名:Susana Jamaladynova)は1983年に、旧ソ連構成国の一つである、キルギス・ソビエト社会主義共和国(現:キルギス)オシで生まれました。

父親がクリミアン・タタール人で、母親がアルメニア人という家庭に生まれたJamala。彼女の父方の先祖は元々クリミアに住んでいたのですが、今回の楽曲にも歌われた1944年、クリミアン・タタールの人々はクリミアから追放され、中央アジアに強制移住させられたのです。旧ソ連が崩壊し、移動の自由が認められた後、一家はクリミアに帰還しました。

Jamalaは小さい頃から音楽活動を始めていて、9歳の頃には12人の子どもたちとともに、クリミアン・タタールの民謡をレコーディングしています。

その後、本格的に音楽の勉強を始めたJamalaは、ウクライナ国立チャイコフスキー記念音楽院(キエフ音楽院)に入学しオペラを学びました。

卒業後は本格的にクラシック歌手としての道に進みたいと思っていたJamalaでしたが、転機が訪れたのは2009年のこと。旧ソ連地域の新人歌手を集めた音楽祭New Waveに出場し、大賞を受賞したのです。
 
JamalaHistory Repeating」 New Wave 2009より)

この後、彼女はウクライナ国内外で数々の賞へのノミネートや受賞を受けるなど、注目を集めるポップシンガーとなりました。その一方で、ラヴェルのオペラ「スペインの時計」で主役を務めるなど、本来目指したかったクラシック歌手としてのキャリアも積んでいくこととなりました。


JamalaSmile」 ユーロビジョン2011ウクライナ国内予選より)

2011年にはユーロビジョンの国内予選にも挑戦。ジャジーな歌声と民謡的な節回しを見事に歌い分けた楽曲「Smile」で挑んだ彼女は、視聴者投票でトップを記録したのですが、放送局が「票の集計にミスが発覚した」として、再度決勝を行うことを発表したのです。この経緯に、一度は決勝への出場を表明していた彼女ですが、「投票に不正がある」と表明し、決勝出場をボイコットしました。

ちょっとした混乱に巻き込まれてしまったものの、彼女はその後もウクライナを代表するトップシンガーの一人として活躍していくのですが、2014年にウクライナ全土を巻き込む事件が発生し、彼女もその波に飲まれることとなったのです。

親EU派と親ロシア派の対立が激化し、国を二分する動乱にまで発展した2014年ウクライナ騒乱、それに続くクリミア半島の帰属問題。クリミアン・タタール人である彼女は親ロシア派から「アメリカの手先」「ファシスト」などと言われなき誹謗中傷を受けることとなったのです。さらに、クリミア半島がロシアの実効支配下となった2014年夏以降、彼女は家族と会えない状況が続いているといいます。

現在クリミアでは、ロシア系住民の社会保障がウクライナ統治の頃より手厚くなったとされる一方で、タタール系のテレビ局が閉鎖に追い込まれるなど、少数民族に対する冷遇が問題視されています。その中で、彼女が歌で声を上げることには大きな意味があると言っていいでしょう。


クリミアン・タタールの、そしてウクライナの声を届けるべく立ち上がったJamalaは、現地時間5/12に開かれる準決勝2日目のステージに登場します。彼女の思いを、しっかり受け止めましょう。


参考:ESC公式、Wikipedia"Jamala"、Reuters"Ukraine's Eurovision song mourns Moscow purge of Crimean Tatars"、産経””私は歌う” タタール人歌手、ジャマラさん”