ユーロビジョン2017ハンガリー代表は、Joci Pápaiの「Origo(起源)」に決まりました。

オリエンタルな雰囲気漂うこの楽曲は、音楽を武器に、ときに差別や偏見と戦いながら成長していったJoci自身の半生を、ロマ音楽独特の節回しやラップを駆使して描き、民俗音楽とポップスの融合を試みた一曲です。

ここ数年、ハンガリー代表は社会問題を扱うシリアスな楽曲が選ばれる傾向にありますが、今回の楽曲も例に漏れず、かつ、ユーロビジョン2017のスローガンである「Celebrate Diversity」にも沿った内容に仕上がっています。


〈Joci Pápaiのプロフィール〉
Joci Pápai(Pápai Joci / József Pápai)は1981年9月にハンガリーの首都ブダペストから西へ約70km程に位置する街タタで生まれました。

(タタに佇むJoci)

大きなジプシー楽団を率いていた父親や、ギターを弾いていた兄の影響もあって、彼は4歳の頃からギターを手にし、演奏や作曲を行うようになったそうです。バスケットボールでも早くから頭角を現していたというJociですが、バスケの道ではなく、音楽の道を歩んでいくことを選びます。

「Origo」の歌詞にある通り、ギター一本で勝負をしてきたJociは、2005年にハンガリー版アメアイMegasztárに出場し、アーティストへの一歩を踏み出しました。この番組では結果を残すことは出来ませんでしたが、この年に発売したデビュー曲「Ne nézz így rám(俺を見るな)」がハンガリーのシングルチャートでヒットを飛ばし、注目をあつめることになります。

Joci PápaiNe nézz így rám」)

2005年のデビュー以降、Jociはソロ活動のみならず、ハンガリーのラッパーMajka等と組んで活動し、歌手としての地位を確立していきました。

Majka & Joci PápaiMikor a test örexik」)

2017年、Jociは自身の半生を綴った楽曲「Origo」でハンガリーの国内予選A Dal2017に出場します。
この楽曲は、Jociがメジャーデビュー後に発表してきたヒップホップやR&Bテイストの楽曲とは異なり、自身の音楽の起源であるロマ音楽を強く打ち出したものになっており、ステージパフォーマンスも、ロマの衣装やダンスで印象づけたものとなっています。

Joci PápaiOrigo」 A Dal2017より)

魂のこもったパフォーマンスで審査員や聴衆を魅了したJociは、この国内予選で優勝し、ユーロビジョン2017ハンガリー代表の座を獲得しました。


ユーロビジョン2017ハンガリー代表Joci Pápaiは、現地時間5/11に開かれる準決勝2日目に出場します。


参考:ESC公式、Wikipedia"Joci Pápai"


〈ロマ音楽とは…?〉
ヨーロッパの音楽を語る上で切っても切り離せないのがロマ音楽です。

ロマとは、北インド(ラジャスタン地方)に起源を持つ移動型の民族で、旅先で音楽や大道芸を披露して収入を得ていることで知られています(かつては「ジプシー」とも呼ばれていました)。
北インドが起源となると、「Origo」の曲調がなんとなくインドの音楽のように聞こえたり、ダンサーの服の鮮やかさがインドの衣装に似ているように見えるのも納得ですよね。

そんなロマの方々は、西暦1000年以前からラジャスタン地方を離れ、イランやアルメニア、中近東を経てヨーロッパにも進出し、各地の伝統音楽にも強い影響を残していくことになります。
トルコのベリーダンスやハンガリーで生まれた舞曲チャールダーシュ、スペインのフラメンコ、そしてロマン派のクラシック音楽まで、即興的で時に情熱的、時に繊細なロマ音楽がヨーロッパの様々な人々を魅了し、広く受け入れられていきました…

Vittorio Monti作曲 「チャールダーシュ」 演奏:József Lendvay & Friends)


見た目や風習の違いから、ときに差別を受けながらも、音楽を通してヨーロッパ文化の一部となったロマの人々とロマ音楽。ユーロビジョンにも、そんなロマ音楽のレジェンドが出場していました。

Esma & LozanoPred Da Se Razdeni」 ユーロビジョン2013準決勝より)

2013年にマケドニア代表として出場したEsmaは、現代のロマ音楽を語る上で欠かせないミュージシャンで、マケドニアや旧ユーゴ圏において「ジプシー音楽の生きる伝説」とまで言われる地位を確立しました。

500を超える作品を世に送り出し、精力的なアーティスト活動を続けながら、43人の子供の里親になったり、数々の慈善活動で広く社会貢献も行ってきたEsmaですが、2016年12月にお亡くなりになりました。この場を借りてご冥福をお祈りいたします。

ヨーロッパに根付いたロマの文化やレジェンド達に思いを馳せながら、Jociのライブパフォーマンスを見ると、また違った楽しみ方ができるかもしれませんね。


参考:Wikipedia"ロマ音楽"、Plankton"GYPSY MUSIC 千年にわたる流浪の民ジプシーの旅"